交通事故のむちうちで後遺障害12級に認定されるケース
交通事故に遭うと、被害者が「むちうち」になってしまう事例が非常に多いです。
むちうちで「後遺障害」に認定されると、加害者側から「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を支払ってもらえます。
むちうちで認定される可能性がある後遺障害の等級には、主に「12級」と「14級」があります。
今回は、交通事故のむちうちの後遺障害で、特に「12級」になるケースについて解説します。
1 むちうちとは
⑴ 原因と症状
むちうちとは、「頸椎(首の骨)」が損傷を受ける症状です。
追突事故などで後ろから強い衝撃が加わると、首が一瞬S字型にしなります。
すると、外傷がなくても頸椎が損傷を受けて、後日さまざまな症状が出るのです。
頸椎内には神経が通っているので、神経が傷つくと背中や肩、腕などの広い範囲にしびれや痛みなどの症状が出ます。
「むちうち」は一般的な名称であり、正式には「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」などの診断名になります。
むちうちの典型的な症状は以下の通りです。
- ・首の痛み
- ・首の可動域制限(動かしにくくなる)
- ・背中や肩のこり
- ・背中や肩のしびれ、痛み
- ・腕の痛み、しびれ
- ・倦怠感
- ・頭痛、頭重感
この他、めまいや耳鳴り、食欲不振、手のしびれや痛みなどが発生するケースもあります。
⑵ 治療方法
むちうちの治療では、首を固定して安静にさせるのが基本です。
痛みなどの症状が落ち着いてきたらリハビリを開始します。
温熱療法や電気治療、湿布による対処療法などを実施し、「牽引療法」と言って首を引っ張る治療を行うケースもあります。
むちうちの程度や状態によって適切な治療方法が異なるので、医師とよく相談しながら自分に合う治療を施してもらいましょう。
2 後遺障害の「等級」とは
冒頭の通り、交通事故でむちうちになったら「後遺障害の等級認定」を受けられる可能性がありますが、そもそも「等級」とは何か、ご存知でしょうか?
交通事故の後遺障害には、重いものから軽いものまで様々なものがあります。
交通事故の後遺障害認定基準では、後遺障害の度合いを分類して、14段階の「等級」をつけて分けています。
もっとも高い等級は1級で、両眼を失明した場合や両手を失った場合などの重度な後遺障害が残った場合に認定されます。
数字が上がるとだんだんと症状が軽くなり、14級がもっとも低い等級となります。
支払われる賠償金も、1級なら1億円以上になることもありますが、14級では数百万円程度までになるのが通常です。
むちうちで後遺障害が認定される場合には、多くのケースで「12級」あるいは「14級」となります。
3 むちうちで後遺障害12級となる場合
では、むちうちで後遺障害12級が認定されるのは、どういった場合なのでしょうか?
12級のむちうちは、14級よりも症状が重いものです。
ただ「痛みが強い」「可動域制限が大きい」などの基準で12級が認定されるわけではありません。
「MRIやレントゲンなどの画像検査により、明確に異常所見を立証できるか」の違いで判断されます。
つまり、MRIなどを撮影して、組織や骨などの何らかの病変がみられたら12級が認定される可能性があり、それがなかったら認定されても14級に止まります。
むちうちの場合、通常はレントゲンやCTを撮影しても異常を発見できません。
12級の後遺障害認定を受けるには、MRIによって異常所見を見つけることが必須となってきます。
むちうちで通院しているけれどMRI撮影をしてもらっていない、という場合には、早急にMRIによる画像撮影を受けるべきです。
4 12級の慰謝料相場
むちうちで後遺障害12級を認定されたら、どれくらいの慰謝料が支払われるのでしょうか?
交通事故の「後遺障害慰謝料」は、認定された後遺障害の等級に応じた金額になります。
後遺障害12級の場合、裁判基準(弁護士基準)で計算すると、後遺障害慰謝料は290万円程度です。
ただし任意保険会社が被害者に提示する「任意保険基準」の場合には、100万円程度(個々の事案、保険会社により提示額は異なります)に下がります。
このように差額が発生するのは、交通事故の慰謝料計算基準が複数あるからです。
弁護士や裁判所が利用する基準が本来適用されるべきですが、任意保険会社は営利団体ですから、独自の「任意保険基準」をあてはめてきます。
むちうちで後遺障害12級となったとき、290万円程度の裁判基準による適正な慰謝料を獲得するには、弁護士に示談交渉を依頼するか、裁判を起こして裁判所に賠償金を認定してもらう必要があります。
現実的には、弁護士に示談交渉を依頼することになるでしょう。
5 12級の逸失利益
むちうちで12級の後遺障害となった場合、「逸失利益」も請求可能です。
逸失利益とは、後遺障害が残って労働能力が低下したことによって得られなくなった将来の収入です。
むちうちで痛みやしびれが残っていると、これまでのように効率的に働けなくなって減収が発生するので、その分の補償を求めることが可能です。
逸失利益の金額も、認定された等級によって変わります。
ただ、逸失利益は「事故前の年収」や「年齢」によっても変わってくるので、等級だけでは決まりません。
12級の場合には、労働能力喪失率14%として計算します。
詳しくは弁護士にご相談ください。
6 12級の後遺障害認定を受けるためのポイント
最後に、むちうちになったとき12級の後遺障害認定を受けるには、以下のようなことが重要です。
⑴ 精度の高いMRIで検査してもらう
12級の認定を受けるには、MRIで異常所見を立証することが必須です。
そこで、MRIによる検査を重視しましょう。
MRIの検査機器にはいろいろな「精度」のものがあります。
現在は3テスラという単位のものがもっとも精度が高くなっています。
精度が高いと異常を発見しやすいので、できるだけ最新の医療機器を導入している病院に通うのが良いでしょう。
また、技師や医師の技量や資質も影響してきます。
⑵ 異常所見と症状が一致している
12級の認定を受けるとき、MRIで得られた異常所見と被害者の訴える自覚症状が一致していることも重要です。
MRIで異常が見られる箇所と痛みを訴えている部分がずれている場合などには、「因果関係がない」などと判断されて、等級非該当となってしまう可能性もあります。
自覚症状を訴えるときには、適当にあちこちが痛いと言うのではなく、自分の症状をきちんと把握して、医師にわかりやすく伝えましょう。
⑶ 他の検査も併用する
後遺障害12級の認定を受けるにはMRIが必須と言いましたが、他の検査が不要という意味ではありません。
むちうちの検査には他に「神経学的検査」と呼ばれるさまざまな検査があります。
たとえば、椅子に座った状態で医師に首を動かしてもらう「ジャクソンテスト」や「スパーリングテスト」という検査、異常反射がないか調べる「腱反射テスト」、首の可動域に関するテストなどがよく実施されます。
また、「筋電図検査」などの電気生理学的検査が行われるケースもあります。
後遺障害認定を受けるには、症状を証明できる資料がなるべくたくさんあることが望ましいです。
立証が足りていない場合、医師とも相談していろいろな検査を実施してもらいましょう。
⑷ もともとある症状(既往症)にも注意
むちうちでは、「既往症(元からある症状)」にも注意が必要です。
MRIによる異常所見があっても「もともとのヘルニアなどの症状ではないか」と言われるケースがあるためです。
確かに、経年によってヘルニアなどの症状が発症することは通常よくあることですし、過去に治療を受けていたケースもあるでしょう。
しかし、既往症があっても事故前に治癒しており、痛みなどが出ていなかったのであれば、交通事故によって新たに椎間板ヘルニアの症状が現れたとして「後遺障害が残った」と言えます。
素因減額されることはあっても、後遺障害が必ずしも認められないわけではありません。
椎間板ヘルニアの既往症があって保険会社から後遺障害を否定された場合でも、弁護士に依頼して訴訟を起こせば後遺障害認定される可能性もあります。
むちうちになって痛みやしびれが出ているなら、まずはMRI撮影によって椎間板ヘルニアや頸椎の変性、脊柱管狭窄などの立証を目指しましょう。